


前回(その3)までのコラムで、インフレの型について学びました。
今回(その4)は、それをふまえて
インフレの良し悪し
について考えていきます。
その1 その2 その3 その5
前回までの内容を理解している人は、もう答えが見えていると思います。
結論は、
インフレが良いか悪いかは、その型によって変わる
ということです。
ディマンド・プル型のインフレは、買う人の財布のヒモが緩くなる、つまり日本という国全体の景気が良いことになります。
日本の歴史で典型的なのは、戦後の高度経済成長期です。
コストプッシュ型のインフレは、費用が大きくなることで価格が上がる、典型例はオイルショックです。
次のグラフを見てください。
青い線が賃金、赤い線が物価の上昇を示しています。どちらも、国民所得倍増計画がうちだされた1961年を100としています。
まず赤い線(物価)を見ると、1973年ごろまで上昇が続いています。
縦軸を見ると、1961年から12年ほどで物価指数が約2倍になっていることが分かります。
つまり、1961年に1000円で買えていたものが、1973年には2000円になっているイメージです。
現代の感覚では驚くかもしれませんが、当時はこのインフレを『歓迎する』人のほうが多かったと考えられます。
なぜなら、物価と同時に賃金も大きく伸びていたからです。
青い線(賃金)を見ると、期間を通して力強く右肩上がりです。
国民所得倍増計画は10年で所得を2倍にする目標でしたが、賃金だけで見ると7年ほどで達成しています。
1987年には指数が1200を超え、25年ほどで名目賃金は約12倍になりました。
たとえば、名目年収300万円の人が、同じ働き方で3600万円の年収を得るようになった計算です。
(もちろん『名目』の話であり、物価も上がっていますが、それでも実質的な生活水準は大きく向上しました。)
次に、コスト・プッシュ型インフレの例として、1973年のオイルショックを見ていきます。
が、その前に考えてみてほしいことがあります。
さきほどのグラフでは、賃金上昇>物価上昇だったため、人々はインフレを歓迎しました。
では、賃金が上がっていても、次のような場合だったらどうでしょう?
・賃金上昇=物価上昇
・賃金上昇<物価上昇
どちらも賃金が上がっていますが、
・物価が同じくらいあがっていたら?
→「給料が上がった!」と思っても、買える量は変わらない

・物価のほうが大きく上がっていたら?
→「給料が上がった!」と思っても、実際には生活が苦しくなる
給料が5000円から1万円にUPしたから、
1杯1000円のラーメンが5杯じゃなくて10杯食べられる!
・・・と思ったら、ラーメン1杯2500円に値上がりしていたから
結局4杯しか食べられない。

そうです。
『名目』賃金だけでは、賃金が上がったことは分かりますが生活が本当に楽になったのかどうかは分かりません。
物価の変化を考慮したうえで、生活が楽になるほど賃金が上がったのかどうかを知るためには、『実質』賃金を見なければなりません。
『名目』賃金:物価上昇を考慮しない、額面の賃金
『実質』賃金:物価上昇を考慮した、生活の実感に近い賃金
先ほどのラーメンの例だと、

『名目』と『実質』の違いを理解できたところで、次のグラフを見てください。
さきほどのグラフと同じ青い線は名目賃金、そして新しく登場した紫の線が、実質賃金です。
このグラフから分かることは、
・1973年を境に、青い線(名目賃金)ほど、紫の線(実質賃金)は上がっていない
・1973年を境に、紫の線(実質賃金)の傾きが明らかに弱くなっている
という点です。
ここから考察できることはなんでしょうか?
『名目』は大きく上がっていますが、『実質』はそれほど上がっていません。
これが意味することとは?

オイルショックとは、原油価格の急騰によって、あらゆるモノの価格が一気に上がった出来事です。
教科書で、トイレットペーパー売り場に人々が殺到する写真を見たことがある人も多いでしょう。
費用が大きくなったことでモノの価格が上がる
これはまさにコスト・プッシュ型インフレの典型です。
名目賃金は1973年以降も伸びていますが、実質賃金はそれほど上がっていません。
物価上昇に賃金が追いつかなかったことが分かります。
ここに気づいた人は、金融リテラシーがとても高いと言えます。
賃金が上がって、物価も上がっている。
これはディマンド・プル型インフレの特徴でした。
最初見たグラフで明らかなように、物価とともに賃金も上がっていました。
しかし、オイルショック下のインフレは明らかにコスト・プッシュ型でした。
コスト・プッシュ型インフレにもかかわらず、賃金が上がっている理由の一つは、当時の日本の労働慣習にあります。
高度経済成長期を通じて、
・物価は毎年上がる
・賃金も毎年上がる
という“当たり前”が社会に根付いていました。
そのため、オイルショック後の不況下でも、
「賃金を上げなければ労働者が集まらない」という状況が続いていたのです。

つまり、オイルショック後の賃金上昇は、
・企業の利益
・生産性の向上
に支えられたものではありませんでした。
むしろ、企業が大きな負担を抱えながら、
労働者の生活防衛の要求に応じて実現した賃上げだったのです。
ディマンド・プル型インフレ:
景気が良いときに起こる、
いわば『歓迎されるインフレ』
コスト・プッシュ型インフレ:
景気悪化を引き起こす恐れのある
『歓迎されないインフレ』
今回は日本の歴史にも触れ、さらにグラフも登場したため、少し難しく感じた人もいたかもしれません。
特にグラフでは、知りたい情報を得るために『名目』と『実質』どちらに注目するべきなのかを解説しました。
グラフの読み取りは、ただ線の上下を見るだけではありません。
・そのグラフから本当に知りたい情報を読み取ることができるか
・そもそも必要な情報が載っているのか
・都合の良い部分だけ切り取られたグラフではないか
こうした視点を持つことがとても大切です。
金融商品(株や保険等)のセールスで、右肩上がりのグラフを見せられることがあります。
しかし、グラフの見せ方ひとつで印象は大きく変わります。
安易に「良さそう」と判断せず、数字の裏側を冷静に読み取ることが、自分のお金を守る力につながっていきます。
次回はいよいよ最終回です。
インフレが私たちの生活に与える影響とその対策
について考えてみましょう。